どちらが先か

病気が治ったから、
元気になったのか。

それとも、
元気になったから、
病気が治ったのか。


ある医師の話を思い出す。

講演で漢方の症例を紹介したとき、
聴衆の一人が言った。

「二千年前の薬を使う理由が分からない」

それに対して、
医師はこう問い返したという。

人の身体の仕組みは、
その頃と今とで、
本当に変わっているのか。


その問いは、
そのまま鍼灸にも向けられている。


現代では、
医療において科学性や標準化が重視される。

それは当然の流れだと思う。

安全であること。
再現できること。
誰が扱っても同じ結果になること。


けれど、
その枠に収まりきらないものもある。


人の身体は、
均一ではない。

同じように見えても、
同じではない。


数値では測れない変化や、
言葉にならない感覚も、
確かに存在している。


例えば、
安心したときに力が抜けること。

緊張がほどけて、
呼吸が深くなること。

そういった変化は、
目に見えにくいが、
確実に身体に影響している。


西洋医学では、
病気が治ったから元気になる、
と考えることが多い。

一方で、
元気になったから回復が進む、
という見方もある。


どちらが正しい、
という話ではない。

ただ、
順序の捉え方が違う。


身体は、
単純な因果だけで動いているわけではない。


何かが整い始めるとき、
それが原因なのか結果なのかは、
はっきりしないこともある。


医療の役割は、
症状を取り除くことだけなのか。

それとも、
回復しようとする力に
触れることなのか。


どこに重心を置くかで、
見えるものは変わる。


鍼灸は、
強く変える方法ではない。

小さな変化が、
どこまで広がるかを見ている。


元気が先か、
回復が先か。


そのどちらにも、
理由があるのかもしれない。

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