“Pay It Forward”という静かな循環

ニューヨークで過ごしていたとき、
ふと、ある言葉を思い出しました。


“Pay it forward”


誰かにしてもらったことを、
その人に返すのではなく、

別の誰かへと渡していく。


昔観た映画の中の言葉。

どこか遠いもののように、
記憶の中に残っていました。


今回の滞在は、
ひとつの小さな行動から始まりました。


Instagramで、
ブルックリンに住む方へメッセージを送ったこと。


「ビジネスのためではなく、
日本人として、そして鍼灸師として
何ができるのかを探すために来ました」


そう書いたことを、
よく覚えています。


けれど、現実は思うようには進みませんでした。


予定は崩れ、
出会いも広がらず、

どこかで立ち止まりそうになる。


そんな中で、
ひとつお願いをしました。


「どなたか、紹介していただけませんか」


本来であれば、
簡単に言える言葉ではなかったと思います。


それでも、

その一言を受け取った方は、
締切前の忙しい中で

多くの人に声をかけてくれました。


結果として、

想像していなかった出会いが、
いくつも生まれました。


感謝と、少しの申し訳なさを伝えたとき、

返ってきたのは、
あの短い言葉でした。


“Pay it forward”


「みんな、昔
知らない誰かに助けられているから」


その言葉は、
どこか当たり前で、

同時に、深く残るものでした。


ある朝のことです。


近くで美容室を営んでいる方が、
「お昼に」と玄米のお弁当を持ってきてくれました。


その温かさに触れたとき、
ふと、昔の記憶がよみがえります。


異国での生活。
限られたお金。


「困ったら言いなさい」

そう言ってくれた父の言葉と、

何も言わなくても
気にかけてくれていた恩師の存在。


あのとき受け取ったものを、

私はどこかで
“返さなければいけないもの”だと思っていました。


けれど、

少し違ったのかもしれません。


返すのではなく、
渡していく。


誰かから受け取ったものは、
別の誰かへと流れていくことで、

はじめて意味を持つのかもしれない。


鍼灸を通して、
人と出会い、

人に支えられてきました。


だからこそ、

自分の中に残っているものを、
次へと渡していく。


それは特別なことではなく、

ほんの小さな行為の積み重ねなのだと思います。


“Pay it forward”


その言葉は、

静かに、けれど確かに、
人のあいだを巡っている。


あなたは、

これまでに何を受け取りましたか。


そして、

それを誰に渡していきますか。

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