直感という知

「直感なんて非科学的だ」
そう語る医療者に出会うことがある。

たしかに直感は、
数値化しにくい。

論文にもなりにくく、
再現性を示すことも難しい。

だから、
根拠がないように見えるのかもしれない。

けれど、
本当にそうなのだろうか。

直感というものは、
偶然のひらめきではないと思う。

過去に経験してきた症例。
学んできた理論。
触れてきた人間関係。
成功と失敗の積み重ね。

そうした膨大な情報が、
無意識のなかで統合されて、
一瞬の感覚として立ち上がる。

意識が追いつかないだけで、
内部では複雑な処理が行われている。

臨床の現場では、
こういうことがよく起こる。

検査データには大きな異常がない。
しかし、どこか違和感がある。

うまく説明できないけれど、
「この人は悪化するかもしれない」と感じる。

そして後になって、
その感覚が正しかったと分かることがある。

それは霊的な力ではなく、
経験の積み重ねが
瞬間的に形になったものなのだと思う。

科学は再現性を重んじる。
直感は個人の経験に依存する。

だから直感は、
証明することが難しい。

けれど、
証明しにくいことと、
価値がないことは
必ずしも同じではない。

熟練した職人が、
一目で違和感を見抜くように、

長く臨床に携わった人が、
言葉にならない危険信号を
感じ取ることがある。

人間は、
データだけで世界を見ているわけではない。

数値には現れない変化や、
説明しにくい違和感。

そうしたものに気づくのは、
人の感覚なのだと思う。

科学はとても大切だ。

けれど、
臨床という現場は、

もう少し複雑なものなのかもしれない。

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