見えていなかったもの

一年ぶりに、Aさんが来院した。

「足が腫れていて、痛いんです」

足背は、たしかに腫れている。


これは、
自分の領域ではないかもしれない。

一瞬、そんな考えがよぎる。


「整形外科には行きましたか」

そう尋ねると、
少し間をおいて、

「行っても、あまり変わらないから」

と返ってきた。


原因を探そうと、
いくつか質問を重ねる。


「長く立つことはありますか」

そう聞くと、
少し考えてから、

ぽつりと話してくれた。


「主人が、年明けに倒れて」


施設に入っていること。
バスで通っていること。

乗り継ぎや、待ち時間。
その積み重ね。


足に触れる前に、
見えていなかったものがあった。


腫れや痛みをどう取るか。
そればかりを考えていた。


けれど、
まず必要だったのは、
疲れを抜くことだったのかもしれない。


足裏に手を当てる。

いつもより、
少し長く触れてみる。


話を聞きながら、
呼吸がゆるむのを待つ。


その日は、
次の予約が入っていなかった。

時間だけが、静かに流れていた。


何をしているのかと問われれば、
うまく説明はできない。


ただ、
ここに来てよかったと、
思ってもらえたらいいと思った。


関節を整えることだけが、
仕事ではないのかもしれない。


見えていなかったものに、
触れていくこと。


それもまた、
手当ての一つなのだと思う。

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