素直に、謙虚に

週に何度か、
患者さんの家に伺っている。

背中に手を当てて、
灸を据えながら、
ゆっくりと話をする。

治療というよりも、
ただ時間をともにしているような感覚に近い。


奥の部屋では、
高齢の奥さんに施術をする。

子どもの話や、
昔の暮らしのこと。

四人の子育てを終えて、
今は孫、そしてひ孫の話へと続いていく。


携帯を取り出して、
写真や動画を見せてくれる。

その手の動きや、
表情の変化を見ていると、
時間の重なりを感じる。


築百年の家。

縁側からは、
小鳥の声や、
子どもたちの笑い声が聞こえてくる。


何か特別なことが
起きているわけではない。

けれど、
こういう時間の中に、
ふと気づくことがある。


あるとき、
ご主人が言った。

「素直に、謙虚に」

人が成長するには、
それが必要だと。


その言葉は、
どこかに残ったままになっている。


医療に関わっていると、
知らないうちに、
分かったつもりになることがある。

正しさを持ったまま、
見てしまうこともある。


だからこそ、
素直さや、謙虚さは、
簡単に手放してしまうものなのかもしれない。


手当てをしながら、
そんなことを考えている。


「医は仁術なり」

という言葉がある。


それが何を意味するのか、
はっきりとは分からない。

けれど、

こうして誰かと同じ時間を過ごす中に、
少しだけ触れている気がする。





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