ある日、クライアントから予約のメールが届きました。
「今回は、心身ともに疲れました」
1か月ぶりの連絡。
その短い一文の中に、
いつもより深い疲れがにじんでいるように感じました。
普段は、腰を中心に整えながら、
日々の疲れを抜いていく施術をしています。
けれど今回は、
身体だけではなく、心も静かに消耗しているようでした。
何か、少しでも軽くなるきっかけはないか。
そう思いながら、ふと浮かんできたのが、寅さんでした。
目に留まったのは、こんな言葉です。
「人間って何のために生きてんのかなぁ?」
とてもシンプルで、
それでいて、答えの出ない問いです。
生物として見れば、子孫を残すため。
社会の中では、役割を果たすため。
けれど、「私」というひとりの人間としては、
何のために生きているのか。
以前、クライアントから
映画『PERFECT DAYS』を勧められたことがありました。
その流れで見た対談の中で、
又吉直樹さんがこんな話をしていました。
人生の多くは「線」でできている、と。
私たちはどうしても「点」に目を向けます。
成功や失敗。
出会いや別れ。
強く記憶に残る出来事。
けれど実際には、
何も起きていないように見える時間が、
静かに連なっていく。
その“線”のほうが、
人生の大部分を占めているのかもしれません。
今回の悩みも、
長い線の中に現れた、ひとつの点。
けれど、その只中にいるときは、
それがすべてのように感じてしまう。
そんなときに、ふとよぎる言葉があります。
甥の満男が、寅さんに問いかけます。
「おじさん、人間ってさ…人間は何のために生きてんのかな」
寅さんは、少し考えてから、こう答えます。
なんていうかな、ほら、
あぁ生まれてきて良かったなぁってことが
何遍かあるじゃない。
そのために人間生きてるんじゃないか?
「何遍かあるじゃない」
この言葉に、どこか救われます。
毎日でなくていい。
ずっと続かなくてもいい。
「ああ、生まれてきてよかった」
そう思える瞬間が、
人生のどこかに、いくつかあればいい。
そのために、生きている。
今日は『男はつらいよ』の公開日にちなみ、
「寅さんの日」だそうです。
たまには、昔の映画を観て、
少し声を出して笑ってみる。
それだけで、
張りつめていたものが、少し緩むことがあります。
人生は、線の連なりです。
いまがどれだけ苦しくても、
それは通り過ぎていく一部かもしれない。
映画を見終えたあとに、
ほんの少しでも、
肩の力が抜けていますように。

