日本語翻訳:盛 全躍
日本語添削:池澤 肇
四、内針の応用
1.選穴
1)同気を求める方法
如何に同気を求めるか?先ずは、やはり三才と陰陽に戻ることになる。「老子・四十二章」に曰く「道生一,一生二,二生三」、同気を求めるにはこの逆の「三」から始まる。三は三才或いは三焦、二は陰と陽、一は阿是である。どのような不具合の場所に対しても、先ず「三」から同気を求める。同気の場所は「三」の上(天)にあるか、それとも「三」の中(人)にあるか、そして「三」の下(地)にあるのか?頭痛を例にとると、この症状を聞くと、上に同気を求めることをすぐ思いつく。上に同気を求めるなら、上に刺鍼する区域は、手首と足首の区域に決めることになる。手首や足首の周辺にツボが沢山あるが、どれを選べばよいか?その時に、「三」から「二」に戻す必要がある。「二」は陰陽であり、三陰三陽六経で八脈にも繋がり、もちろん上下左右の陰陽も含まれる。痛みの場所によって「二」から同気を求める。たとえば、前頭部の痛みなら同気は陽明で、側頭部の痛みなら同気は少陽で、後頭部の痛みなら同気は太陽で求める。左側か右側の痛みによると、「二」の段階の同気が求められる。そして上記の「三」を基にして刺鍼のツボが決められる。たとえば、額の右側に痛みがある場合は、左の手首と足首、及び周辺の陽明区域に刺鍼する必要がある。なぜここで “区域”と表現しているか?それはまだ明確な刺鍼場所が決められていないからだ。陽明は経があれば、絡もある。同気の場所は経にあれば経に刺鍼し、絡にあれば絡に刺鍼する。したがって、明確な刺鍼場所を決める為には、同気を求める最後のステップである「一」がある。この肝心の「一」は“阿是”である。
2)阿是穴の使い方
阿是穴は、また不定穴、天応穴、圧痛点とも呼ばれている。このような穴位は一般的に病証に依存し、病証の近くにあることがほとんどだが、もちろん病証から離れる場所にもある。通常、固定的な位置がなければ、決まった穴の名前も存在しない。阿是穴の取穴方法は、痛みの場所による選穴で、俗称「有痛便是穴(痛みのところにツボがある)」である。阿是穴は、黄帝内針理論体系によれば、同気の基礎から成り立ったものである。
阿是穴は、孫真人氏が考案した鍼灸療法であり、「千金方」に記載されている「有阿是之法,言人有病痛,即令捏其上,若里当其処,不問孔穴,即得便快成痛処,即云阿是。灸刺皆験,故曰阿是穴也」。つまり、阿是穴は、病証附近の圧痛点であり、灸でも針でも効果があると言う意味である。阿是法は、後世の鍼灸に、シンプルで使い易い道を開拓した。黄帝内針理論体系は阿是法の特徴を取り入れた。ただ阿是穴を求める場所は、従来の患部から同気する所に変えた。
では、どのようにして同気の所に阿是を求めるか?前述した額の右側にある頭痛を例にすると、内針の原則に従って、左側の合谷穴に刺鍼する必要があり、合谷穴の具体的な位置を調べれば、分かるはずである。しかし、合谷穴が合谷穴の場所にあるのは、「平人(健康な人)」だけである。つまり、教科書に記載された穴位の位置は、すべて「平人(健康な人)」状態の人に対する場所であり、「非平人(患者)」に対する穴位の位置は異なる場所にあるかもしれない。ところが、正常な場所と異常な場所である合谷穴をどのように探せばよいか?それには阿是法が最良な方法となるのである。
同気の中で“阿是”を求めるのは「一」で、内針選穴の要訣は、「三」「二」「一」である。「三」から「二」へ、そして「二」から「一」へ、「一」で刺鍼点を決める。合谷穴の阿是穴を求める具体的な方法は、まず教科書に記載された合谷穴の位置を中心に、穴位とその周辺を親指の腹で軽くもなく、強くもなく押さえながら、最も感じる(痺れ、腫れ、痛み)場所を探す。見つかった場所は、合谷穴の阿是穴になるし、刺鍼のポイントにもなる。合谷穴の阿是穴は、合谷穴にある可能性があれば、合谷穴の上と下や右と左にある可能性もある。上と下の場合、合谷穴の阿是穴は経にあり、右と左の場合、合谷穴の阿是穴は絡にある。もし、阿是穴が確実に見つかれば、針が入った瞬間に症状が消える場合がある。
3)穴外定穴(穴位ではない部位を選ぶ方法)
経絡穴位図を見れば、穴位の分布は一つから一つと均等に隣り合わせにあるわけではない。たとえば、環跳穴と風市穴の距離は遠い。しかし、身体の病証は必ず穴位に沿って起きるわけではなく、どこにでも起こる可能性がある。そうすると、刺鍼の場所が穴位以外の所になる所謂“穴外定穴”と言う問題が出てくる。“穴外定穴”の問題を解決するためには、依然として四総則と、同気で阿是を求めることになる。ここでは同身寸両分法を使用する必要がある。たとえば、陽明経にある陽渓穴と曲池穴の間の距離は、解渓穴と犢鼻穴の間の距離とは異なるが、これは問題ではない。陽渓穴と曲池穴を結ぶ線の中間点で病証が発生した場合、解渓穴と犢鼻穴を結ぶ線の中間点が同気する所で、ここに阿是を求める。もし病証が上記を結ぶ線の中間点ではなく、三分の一或いは四分の一にある場合は、どうなるだろうか?前述の方法によって類推していくことになる。
2.針の禁忌
針道においては、針を使えるところと、使ってはいけないところがあることを知っておくことが大事である。
1)肘膝以上、胴体、頭部に禁針
これは最も重要であるので最初に述べる。学ぶ者は必ず覚えておく必要がある。
2)患部に禁針
黄帝内針系であるなら、患部に刺鍼してはいけない。
3)信頼しない人には禁針
医学の分野では、信頼が治療効果を得る鍵となることがある。したがって、信頼が前提としてなければ、治療しても効果が出ないし、場合によっては逆効果になる可能性がある。この重要なことを考慮して信頼の本質をよく把握し、深く理解する必要がある。信頼関係があるかどうか、患者との会話で、表情や手足の動きに現れる。信頼の意味がよく理解できて、初めて複雑な状況において針を使うか使わないかを正しく選択することができる。鍼灸治療では、医者が患者の体に針を刺入するように見えるが、実際の作用は「心」と切り離すことができない。勿論、ここで指している「心」は、医者と患者の両方が持つ「心」である。我々が信頼について話しているが、信頼は一体どのようなものなのであろうか?中国では「信心任物」と言う言葉がある。つまり、「互いに心を信頼し、物事を任せる」との意味である。「霊枢・本神」に曰く「所以任物,謂之心也」。この観点から見ると、物事は全て「心」を通して成り立ち、心は物事の成功を左右する鍵となる。この点からみれば信頼が如何に大事であるかが分かる。
4)特殊情況に禁針
特に疲れたとき、お腹が空いているとき、満腹のとき、またはアルコールを飲んだ後、鍼治療は適しない。この状況で鍼治療を受けると暈針の確率が比較的高くなる。
5)皮膚損傷部位に禁針
四総則の規範により、刺鍼場所については臨機応変性があるため、必ずその場所に刺鍼しなければならないということはない。そのため、皮膚損傷部位に刺鍼することを避けることができる。
3.常用救急
1)毫針(細い鍼)救急
①後弓反張(全身が後方弓形にそり返って硬直する)
後弓反張は、癲癇の一般的な症状だが、癲癇だけの症状ではない。たとえば、熱中症、持続的な高熱、および激しい嘔吐と下痢の患者も、けいれんや背中筋力が増強することにより、後弓反張の症状が出てくる。後弓反張は督脈や太陽経の攣縮に属する。もしこのような緊急事態が発生した場合、まずは人中穴、後渓穴、申脈穴の使用を考える。人中穴と承漿穴は、経穴の中で最大の1対の陰と陽であり、真の天と地である。人中穴が督脈の本経同気となり、また、後弓反張のような病が後ろの「陽」にあり、人中が前の「陰」にあるため、正に「陽病治陰」の原則による典型的な例である。後渓穴と申脈穴は、督脈に交会し、太陽と本経同気の関係となるため、後弓反張の治療に適している。後弓反張の患者のほとんどは無意識状態で問診が極めて困難のため、人中穴を除き、取穴は男性が左、女性が右のルールに従う。また、第十九病機「諸風掉眩,皆属肝経」によると、後弓反張は肝経に関連しているため、太衝穴でも良い効果がある。後弓反張の症状は後(体の後ろ)にあり、陽明経は前(体の前)にあるため、「後病前治」の原則により、合谷穴も常用穴となる。
後弓反張に伴う無意識の状態の場合、労宮穴、湧泉穴を使う。更に呼吸困難が現れる場合、内関穴を加えれば、良い効果が期待できる。もちろん、然谷穴、太渓穴を加えるなら、「納気帰腎(気を納め、腎に戻す)」により、効果がもっと速く出てくる。
②中風(脳卒中)
中風は非常に一般的な急証であり、脳中風、脳卒中、脳血管障害とも言われ、中医では中経と中臓に分けられる。中経絡の場合、半身不随(片麻痺)を引き起こす。中内臓の場合、意識不明や呼吸器および循環器障害を引き起こすことが多い。中経絡による半身不随(片麻痺)は、通常の黄帝内針の規則に従って治療されるため、ここでは説明しない。中風急証の場合、まず厥陰同気を考慮し、労宮穴、内関穴、太衝穴、中封穴を使う。もし意識障害が出る場合、少陰同気も考慮する必要があり、湧泉穴、太渓穴、少府穴、通里穴を加える。通里穴の役割は何でしょうか?実際にはその名称が既に答えを語っている。里(裏)が塞がれるため、中風が起こり、里(裏)が通れば、平和(正常)に戻ると言うことである。
ここで陽明の役割を少し強調しておきたい。中医学では危険な急証は一般的に閉証と脱証の二種類に分けられている。閉証は陽明と密接な関係がある。この点に関しては「傷寒論」に証拠を見つけることができる。閉証の最も特徴的な表現は意識障害である。「傷寒論」では意識障害に関する記述は陽明病篇に集中している。そういうわけで、閉証による意識障害には、陽明から入手することは、重要で価値ある方途である。また、鍼灸では陽明が最もよく使われる経絡でもある。背中が陽、腹部が陰の原則がある。すべての陰経は原則に従っているが、足陽明胃経だけが陽の領域に行かず、逆に陰の領域を走っている。この陽経が陰の領域を走る陽明の特徴が「中」の性質を持つため、陽明の鍼治療で「中」への回復を促進することができる。これは、陽明が最もよく使われる根本的な理由になっている。さらに、陽明は多気多血の経絡であり、陽明の鍼治療で気と血の回復を促進することは非常に有益である。陽明では、内庭穴、解渓穴、豊隆穴、足三里穴、陽渓穴の諸穴を選ぶことができる。
中風急証に経外奇穴の八風穴、八邪穴に刺鍼することは、古代から貴重な経験として伝わっている。内針から見れば、八風穴も八邪穴も頭と同気関係となり、同気相求める範囲に入る。八風穴は足背で各中足指節関節の間、赤白肉際;八邪穴は手背で各中手指節関節の間、赤白肉際にある。
2)鋒針(三棱針)刺絡による救急
鋒針は九針の一つであり、三棱針として知られ、主に刺絡するために使われる。私はよく鋒針の代わりに12号注射器の針を代用している。応急処置における鋒針の使用は“先鋒”のような効果があり、脳卒中や心臓病の急性発作の場合、鋒針で刺絡出血を行う。先ずは百会穴及び両側の耳尖穴を刺絡する。目や口が歪んだ場合、耳垂穴を加える。もし、「開四関」つまり、合谷穴、太衝穴、内庭穴、陥谷穴の四つのツボを組合せれば、問題解決が容易になる。緊急重症の場合、百会穴と耳尖穴のほかに、十宣穴と気端穴に鋒針で点刺して血液を搾り出す。血液を絞る際に噴射状態であれば、命がまだ助かる。刺して血液を絞っても出血量が少ない場合、回復できない可能性が大きい。熱中症による緊急事態の場合は、尺沢穴と委中穴に刺絡放血を行う。刺絡は男性左、女性右で、或いは両側ともに行う。刺絡の場合、ツボに拘らず青い静脈が張り突出している所を刺絡する。
3)艾灸救急
お灸の応急措置は、主に危急脱証に使用される。意識障害の可能性を除いて、主な症状として顔色が蒼白、手足が冷たい、大量の発汗などが見られる。閉証は主に陽明と関連しており、脱証では主に少陰と関連し、陽気の逆脱により引き起こされる。脱証の治療は、陽を回復し、救逆することが重要なポイントである。お灸は間違いなく最も便利な選択である。お灸に使用される常用穴は、労宮穴、湧泉穴、神闕穴、関元穴、気海穴などがある。尚、鍼治療には暈針(治療中、突然に顔色蒼白、吐き気、眩暈などの症状が現われる状態)の可能性がある。暈針の症状は脱証に似ているため、見た目は怖いが、実際には危険ではない。すぐに抜針して上記の措置を行えば症状はすぐに解消される。
4)手技での救急(手指で押さえつけたり、つまんだり、つねったりする方法。)
上記の応急措置の多くは、手指だけ(手技)で、ある程度代用することができる。特に針治療器具が手元になく急いで処置する場合、手指によって素早く応急措置をすることで命を助けることができる。手指で施術する部位は、針で刺す部位と同じであり、手指の押す強度はそこそこで患者が受け入れられる範囲であれば良い。また、針を怖がっている患者には、針の代わりに手指で治療を行う。
手指でつまんだり持ち上げたりする手技だが、脇前大腱と腋窩の極泉穴が最も一般的に使われている。この方法を使用して、狭心症や心筋梗塞などの急性心臓病発作を治療すると、往々にして予想以上の結果がでることがよくある。
腋窩にある極泉穴の手技は、先ず中指で右極泉穴を後方に押してから前につまんで引く。このように前後方向に繰り返す。もし患者が施術を受けた部位から手まで電撃のような痺れを感じさせれば手指での施術が効いていることを意味している。もしそのような感覚がない場合は、角度と強度を調整する必要がある。
脇前大腱への手技は、脇前大腱を親指、人差し指、中指、薬指で持ち上げてつまんで手前に引いて放すことを繰り返し3回続けて行う。同時に、患者の顔色、表情、呼吸の変化を注意深く観察し、手技が適切に行えれば、心臓前の絞られるような痛みと圧迫感が即座に解消される。もし3回で効果が出なければ、6回または9回行う。脇前大腱は、厥陰の循行経路にあり、心腹の内関穴と同理同気の関係となる。このことから、股(鼠径部)内側の大腱を持ち上げてつまむことでも同様の効果が出る。
4.内針導引
「素問・湯液醪醴論」によると、医患(医者と患者)間の「導引」とは、「病」と「工」の関係である。この論に曰く「病為本,工為標。標本不得,邪気不服。此之謂也」。「内経」の教えによると、「病」と「工」、つまり医者と患者は「相得」しなければならない。これは病気を治癒する前提でもある。所謂「相得」とは、医者と患者の共通意識である。「導引」とは、間違いなく、この共通意識を達成するための鍵となる。「導引」は体の内なる「和合」のためだけでなく、医者と患者の「和合」を実現することができれば、医者と患者は互いに利益を得ることができて、病症は瞬間的に解消されることができるのである。
内針の規範によると、針を体に刺した後は、刺鍼した所に注意を向けない。内針では、“得気”があるかどうかは気にしない、「得気」があっても、なくても治療効果に全く影響しないからだ。内針が重視するのは、同気が得られるかどうかである。同気が得られれば、必ず相求があるし、相求があれば必ず応じてくれるのである。内針が追求するのは、患者に苦痛を与えず、静かに針を挿入することである。針が挿入された後、私たちは疾患に意識を集中する。ここで言う「私たち」とは医者と患者のことで、医者は言葉で導き、患者は注意を払うことで病症の変化はすぐに起こる。この変化は、痛みの解消或いは軽減を、または機能の部分的或いは完全的な回復を指し、様々な奇跡が起きても不思議ではない。内針治療の全過程において行針(針を動かす操作)は行わない。通常45分程度置針してから抜針する。置針中に患者が患部に静かに注意を払い、苦痛が除々に消えていく喜びを感じてもらえばよいのである。
黄帝内針の素晴らしい所は、「守神」と「得神」である。心は神の主であり、上記の医者と患者の「相得」とは、心の相互的な「相得」とも言える。医者と患者の心が「相得」できれば、「標」と「本」が一つになり、全ての願いが叶えられる。「相得」とは何か?医者はまず、患者の苦しみを解消し、命を救うことを誓い、大きな慈悲と寛容を示さなければならない。これ以上の近道はないのである。
医療の道は、命を救い、苦痛を解消し、人々を助けることだけを目的としている。内針の入門は簡単だが、奥が深い。マスターしたいと思うならば、全力を尽くさなければならない。そのようにすることによって、針によって真実に出会い、針によって真実を知ることができる。最も忌むべきことは、内針の知識や技術に頼って名誉と利益だけを追求することである。このようなことを犯す人は、内針は何も役に立たないし、最終的には必ず他人も自分も傷つけることになってしまうのである。内針を学ぶ者は、このような教訓を必ず心に留めて置くことを願うものである。
5.美容における内針の理論と方法
顔の美容は陽明に求めるべきである。それは「素問・上古天真論」の記述に見ることができる「五七,陽明脈衰,面始焦,髪始墜」。陽明は多気多血の経絡で、陽明に刺鍼することで気血の回復を促進するのに非常に有益である。したがって、陽明を把握すれば、美容の主脈を把握することができる。陽明では、内庭、解渓、豊隆、足三里、陽渓などを選ぶことができる。

