黄帝内針(理論篇) |「三、内針の規範」

日本語翻訳:盛 全躍
日本語添削:池澤 肇

目次

1.証(症)を知る

張仲景が「傷寒論」で「観其脈証,知犯何逆,随証治之。」の十二文字を伝えた。ここで述べている重要なポイントは、病ではなく、脈でもなく、証である。証とは何か?証とは患者の身体的問題の総合的な表現である。この表現には病気の症状だけでなく、病気の原因や問題に対する治療方法も含まれる。したがって、証は実際には病気の症状、原因、そして治療方針を含んでおり「三合一(三が一つに統一)」とも言える。

証は身体の異常表現として痛み、痒み、痺れ、腫れ、熱、寒などがある。勿論、大小便の異常、飲食の異常、呼吸の異常、睡眠の異常などもある。もし証が体の局部に限定される場合、例えば、体の特定部位の痛み、または特定区域の赤みの腫れなら、経絡の循行部位と後から詳しく説明する原則により、治療方針が直ぐ分かる。但し、不眠症、発熱、悪寒などのように部位が明確に特定できない場合、定性で問題を解決する必要がある。そのためには、「内経」と「傷寒論」の教えが助けてくれる。不眠症を例にするが、これは現在非常に多い病証である。内針の観点からみれば、陽が陰に入れないことが問題なのである。このような場合はどうすればよいのであろうか?陰から陽を引いて来れば、問題が解決できる。もし厥陰から陽を引いて来る場合、厥陰の経穴(太衝穴、内関穴、大陵穴、労宮穴)に刺鍼する。少陰から陽を引いてくる場合は、少陰の経穴(通里穴、神門穴、湧泉穴)に刺鍼する。太陰から陽を引く場合、太陰の経穴(魚際穴、太白穴、公孫穴)に刺鍼する。もし三陰(太陰、少陰、厥陰)を共に使うなら、三陰交穴だけで十分である。不眠症の弁証からみると、これを治療するためのツボはどれなのか?どれでもないように見えるが、実際はこれらのツボすべてで治療できるのである。唐朝初期の許胤宗は「医者意也,在人思慮。」と言っており、これほど針道に適した言葉はないだろう。治療法理に合っていれば、ツボの効用は医者が決めるのである。腕(技術)が熟練してくれば、医者の思う通りの効果が出てくる。効用とツボを縛ることは、決して本来の針道ではない。中医鍼灸の多くは、実際にはシンプルで、重要なポイントをつかめば、理解しやすい。

2.内針の四総則

内針の四総則は、「黄帝内針」の臨床治療における四つの原則である。

総則一:“上病下治、下病上治。”
総則二:“左病右治、右病左治。”
総則三:同気相求(同じ気を求める)。
総則四:陰と陽を逆にして同気相求める。

1)総則一と総則二:“上病下治,下病上治;左病右治,右病左治。”

総則一と総則二は「素問」で言及しており、「陰陽応象大論」の他に「繆刺論」においても提示している。上下左右は定格であるが、特に左右は定格中の定格であり、大規範であり、大原則でもあるのでこれに反してはならない。上下、左右もまた陰陽となっている。前述の「素問・陰陽応象大論」に述べている「陽病治陰,陰病治陽。定其血気,各守其郷」と同じ内容である。上下、左右を陰陽に分けることができるが、内外、前後も陰陽に分けられる。例えば、内側が陰、外側が陽、前(胸腹)が陰、後(腰背)が陽である。更に陰の中に陽があり、陽の中に陰があることを加えたら、その数に限りが無くなる。臨床や日常応用の中に現れる病証を細かく観察し、治療方針をよく考え、久しく続けていけば、何時かは必ず要領を手に入れることができるのである。

2)総則三:同気相求める

同気とは、先ず経絡同名同気がある。つまり、経絡名が同じであれば、気も同じという意味である。たとえば、手陽明経と足陽明経は「陽明」と言う経絡の名が同じであるので、同気の関係になる。同様に、手太陰経と足太陰経は「太陰」と言う経絡の名が同じであるので、同気の関係になる。経絡同名同気という原則があれば、多くの問題を簡単に解決することができる。たとえば、手陽明経が循行する区域に痛みなどの症状が現われる場合、対側の手陽明経と対側の足陽明経の区域を治療することは、同気相求めることになる。

経絡の同名同気だけを求めていては、ただの大まかな同気であり、所謂「大同気」である。これだけでは方針を確定できない。もっと具体的な段階に深く進むならば、三才同気或いは三焦同気がある。経絡同気と三才同気は必ず互いに求めあうようにすること。三才或いは三焦同気とは、上(天部)は上と、中(人部)は中と、下(地部)は下と同気である。例えば、四肢の手首と足首は共に上焦(天部)に属するため、手首と足首は同気の関係となる。したがって、手首関節の病証は足首関節で治療することができ、足首関節の病証では手首関節で治療することができる。これは、「上病下治、下病上治;左病右治、右病左治;同気相求める。」という三総則の融合である。もう一つの例では、肘と膝は中焦(人部)に属するため、肘と膝は同気の関係ともなる。一般的に脾と胃が中焦と思われるのに、どうして肘や膝も中焦なのでしょうか?内針から見れば、肘も膝も中焦である。臨床の脾と胃の問題に対しては、どうすればよいのか?つまり、肘と膝のツボを使えば、問題が解決できるのである。

3)総則四:陰と陽を逆にして同気相求める。

総則四は、「黄帝内針」が持つ一つの特徴でもある。前に述べたように、手首と足首は上焦(天部)に属し、肘と膝は中焦(人部)に属すが、肩と股はどうだろう?肩と股は下焦(地部)に属し、同気の関係になる。同気相求める原則によると本来、股の問題は肩で解決すべきだが、「黄帝内針」が決める治療の範囲は、利便性と安全性を考慮して、肘と膝までに厳しく制限している。そのために、肘と膝以上は禁針のエリアになっている。では、どうすれば下焦(地部)の問題を解決するのでしょうか?「下病上治」の原則でこの問題を解決できる。そのため、股と肩部などの下焦地部の問題は、上焦天部の手首と足首で解決する。これは「陰と陽を逆にして同気相求める」と言う四総則の基本的な考えである。四総則を柔軟に使い、熟練上達すれば思い通りの結果が得られるはずである。

3.三焦同気

1)肚腹三里留(肚腹は三里に留める)

なぜ、肚腹の病証が膝関節附近の足三里穴で解決できるか?前述した同気の法則から、肚を中心とする腹部は中焦に属し、肘と膝を中心とする部位も中焦に属するためである。したがって、足三里穴は当然中焦の範囲内にあり、肚腹と同気の関係となるためであり、同気同士が互いに求め合えば、必ず互いに応じ合える。これが、肚腹の病証は足三里穴で解決できる理由である。ところが、この肚腹の区域には、少なくとも五つの経脈(任脈、足陽明、足少陰、足太陰、足厥陰)が循行している。足三里穴は足陽明胃経の合穴であるが、中焦範囲内の陽明経と同気の関係となっているだけである。もし病証が中焦で尚且つ陽明経範囲にある場合、例えば、肚腹の疼痛は中焦範囲の中線に近く足陽明経の循行路線にある場合、足三里穴を使えば、確実に効果が出る。但し、肚腹の疼痛がこの区域から外れている場合、またはこの区域に限定されず、既に太陰また厥陰に広がっている場合は、足三里穴を使っても効果が思う通りにならない可能性が高い。このような場合は、針を陰経の少し内側に刺鍼するか、或いは陰陵泉穴と膝関穴の二穴を加えれば、問題解決ができる。何故なら陰陵泉穴は太陰の中焦と同気の関係となり、膝関穴は厥陰の中焦と同気の関係となっているためである。

2)腰背委中求(腰背は委中に求める)

腰背の区域は、中焦の範囲に属している。真ん中に走っている経脈が督脈であり、両側に走っている主な経脈が足太陽膀胱経である。委中穴は膝裏の膝窩にあり、足太陽の合穴であり、腰背の太陽経と同気の関係となっているため、腰背の病証は委中穴で解決できる。ところが、腰背の病証に委中穴を使っても効果が出て来ない場合もある。例えば、一部の腰痛患者では、痛みが腰のまわりの帯脈の循行径路にある場合、委中穴を使っても全く効果ない。原因としては帯脈が太陽と同気の関係となっていないためである。その代わりに、帯脈の交会穴、胆経の足臨泣穴を使えば良い結果が得られる。また腰痛を例にすると、主に腰の真ん中に痛みがある場合、足臨泣穴や委中穴を使っても効果が出て来ない場合もある。原因としては、同気の場所はここではなく、督脈上にあるためである。この場合、督脈の交会穴、後渓穴を使えば、状況を変えることができて効果がでる。

3)頭項尋列欠(頭項は列欠を尋ねる)

列欠穴は手首の橈側縁近くにあり、手太陰の絡穴であり、任脈の交会穴でもある。内針の原則によると、列欠穴は、頸と同気となる。一般的な咽喉などの問題に効果がある。または列欠穴が任脈交会穴であるため任脈上の問題にも優れた力を持っている。例えば、一般的な女性の月経痛の場合、列欠穴を使えば、痛みが瞬間的になくなったり、少なくとも軽減されたりすることが見られる。そうすると、列欠穴は頭項の病証を解決できるのであろうか?勿論、できるのである。頭項の問題は、主に陽経と関連している。頭には陽経だけ(頭頂に到達する足厥陰肝経の支脈を除く)である。督脈は後頭部の中線に沿って上に登り、全ての陽経をコントロールしている。もし陽が病んだら、どうすればよいか?陽病は陰で治すのである。陽経をコントロールする督脈に相対しているのは、陰経をコントロールする任脈がある。これで「頭項尋列欠」(陽部の頭項に陰穴を求める)の理由がよく分かる。但し、個人的な経験によると、頭項の病証には後渓穴を使えば、もっと良い効果が得られるのである。

4)面口合谷収(面口は合谷に収む)

合谷穴は手陽明経の原穴で、手首背則の親指と人差し指の間にある。顔と口が陽明区域に属し、上焦の範囲にあり、合谷と同気同位(同じ気、同じ区域)の関係となるし、同気同経(同じ気、同じ経脈)の関係ともなる。互いに求めれば、応じないわけがないのである。

5)心胸内関謀(心胸は内関に謀る)

内関穴は手厥陰心包経の絡穴であり、陰維脈の交会穴でもある。心と胸には、生理的なレベルだけではなく、精神的なレベルも含まれる。手厥陰心包絡は前胸の真ん中に位置し、心の宮城となり、胸前正中の膻中にある。「臣使」という官吏を務め、喜楽はここから出るのである。

上記の五総穴に対して内針の四総則を応用展開できるであろうか?例えば、肚腹部の治療には膝の足三里穴に求められるなら、肘の曲池穴にも求められるか?勿論である。心と胸の治療には内関穴に求めるなら、三陰交穴にも求められるか?勿論である。腰背の治療に委中穴を求めるなら、上肢の小海穴にも求められるか?言うまでもない。顔と口の治療は手の合谷穴に求められるのなら、足の内庭穴にも求められるか?同じことである。鍵になるのは同気である。同気さえすれば、何処にでも治療のツボがあり、何処でも効果を求めることができるのである。

4.経絡同気

同気は経絡と三焦から切り離すことはできない。両者は互いに緊密な関連がある。先ず経絡から同気について説明する。
1)手足三陽経(同気)
①手足陽明経(同気)
手足陽明経(同気)

上(焦)手足陽明大腸経  手首陽渓足陽明胃経足首解渓
中(焦)曲池犢鼻
下(焦)肩髃髀関

説明:上下(手足)は陰と陽である。陰陽から三才が生まれる。その中で手首が足首と対応し、上(焦)や天となる;肘が膝と対応し、中(焦)や人となる;肩が股と対応し、下(焦)や地となる。これらの「対応」は、同気という意味である。

手首と足首の対応:手首にある手陽明大腸経の陽渓穴は、足首にある足陽明胃経の解渓穴と対応し、同気の関係となる。陽渓穴の区域に痛み、痺れ、赤みの腫れ、寒熱などの不快感がある場合は、原因を問わず、上病下治、下病上治、左病右治、右病左治の原則で治療を行う。もし右陽渓穴の区域に痛みがある場合は、左陽渓穴を使えるし、勿論、左解渓穴も使える。理論上で黄帝内針の原則に従い、一つの病証を治療し、問題が解決できれば、すべての病証を治療し、問題が解決できるはずである。

肘と膝の対応:肘関節にある手陽明大腸経の曲池穴は、膝関節にある足陽明胃経の犢鼻穴と対応し、同気の関係となる。もし膝関節の痛みが犢鼻穴の区域にある場合は、曲池穴が最適な選択肢の一つである。逆に、病証が曲池穴の区域にある場合は、当然、犢鼻穴が第一選択肢になる。

肩と股の対応:肩にある手陽明大腸経の肩髃穴は、股にある足陽明胃経の髀関穴と対応し、同気の関係となる。経絡の循行が分かれば、循行径路に沿って同気点を見つける。例えば、曲池穴と陽渓穴を結ぶ線の中点に痛みがある場合、反対側の犢鼻穴と解渓穴を結ぶ線の中点は、治療の同気点となる。もし曲池穴と陽渓穴を結ぶ線の4分の1の所に痛みがある場合、反対側の犢鼻穴と解渓穴を結ぶ線の4分の1の場所が同気点となる。このように、体の如何なる所の不調に対しても解決方法を見つけることができる。

②手足少陽経(同気)
手足少陽経(同気)

上(焦)手少陽三焦経手首陽池足少陽胆経足首丘墟
中(焦)天井膝陽関
下(焦)肩髎環跳

③手足太陽経(同気)
手足太陽経(同気)

上(焦)手太陽小腸経手首陽谷足太陽膀胱経足首崑崙
中(焦)小海委中
下(焦)肩貞承扶

2)手足三陰経(同気)
①手足太陰経(同気)
手足太陰経(同気)

上(焦)手太陰肺経手首太淵足太陰脾経足首商丘
中(焦)尺沢内膝眼
下(焦)肩髃穴前2横指衝門

説明:手太陰肺経の下焦地部にある肩関節の対応点は正経正穴ではなく、肺経の径路上にある衝門と同気関係となる対応点である。

足太陰脾経の中焦人部にある膝関節の内膝眼も正経正穴ではなく、経外奇穴である。
②手足少陰経(同気)
手足少陰経(同気)

上(焦)手少陰心経手首神門足少陰腎経足首太渓
中(焦)少海陰谷
下(焦)極泉長強穴外方0.5寸

説明:足少陰腎経下焦地部の対応点は正経正穴ではない、長強外方0.5の所を選んだ理由は、足少陰腎経がここから腹部に入り、体表で極泉穴と同気の関係を持つ最適な所である。

③手足厥陰経(同気)
手足厥陰経(同気)

上(焦)手厥陰心包経手首大陵足厥陰肝経足首中封
中(焦)曲沢曲泉
下(焦)脇前大腱陰廉

説明:手厥陰心包経下焦地部の対応点は正経正穴ではなく、脇前大腱を選んだ理由は同気の原則によるものである。

脇前大腱に関して、この場所は急性狭心症などの心血管疾患の急性発作に非常に役に立つ。通常、狭心症は左胸に発生するが、その時、親指、人差し指、中指で脇前大腱を持ち上げてつまむと、直ぐ症状が緩和されることが多い。脇前大腱の使用は経験の部分があるが、いずれにしても同気原則に合致している。

上記では、36の穴位(片側のみ)と18の対応関係について説明したが、これらは基本中の基本であり、心に留めておく必要がある。もし病証が体の正中線の任脈や督脈にあり、左右の区別がつきにくい場合は、男性は左、女性は右(患者自身の左右)の原則で選穴する。更に上記の四総則に従って選穴する。

黄帝内針の核心的な原則は同気であり、同気相求めれば、必ず応じてくれる。したがって、「霊枢・九針十二原」が述べた四つの効能「抜刺、雪汚、決閉、解結」は内針の効果を説明するのに最適な言葉である。臨床で治療した後に反応がない場合、例えば、病証が疼痛で治療後には痛みが解消或いは緩和されていない場合、最も可能性の高い原因は同気が正しく見つからないからである。同気を正しく調整すれば、直ちに効果が現れるはずである。同気を調整しても反応がない場合、病情を遅らせない為、直ぐにあきらめて、患者を最も有能な治療者に推薦すべきである。どんなことでも、できる事とできない事がある。皆さんもどうか黄帝内針を平常心で認識するようにして欲しい。

3)頭、手足経絡(同気)
頭、手足経絡(同気)

経絡頭(天)手(人)足(地)
厥陰頭頂(百会)労宮太衝
陽明顔面合谷陥谷
太陽後頭後渓申脈
少陽側頭中渚足臨泣

説明:頭頂の区域は、厥陰と同気関係となり、手に対応する同気点は労宮穴であり、足では太衝穴である。額と顔面の区域は、陽明と同気関係となり、手に対応する同気点は合谷であり、足では陥谷穴である。後頭部或いは脳後部の区域は、太陽と同気関係となり、手に対応する同気点は後渓穴であり、足では申脈である。側頭の区域は、少陽と同気関係となり、手に対応する同気点は中渚穴であり、足では足臨泣穴である。

頭と手足の同気関係が分かれば、頭と顔の問題は、手足の同気点を使って簡単に解決できる。例えば、頭痛の場合、先ずこの頭痛は、太陽頭痛なのか、陽明頭痛なのかを見分けること。太陽頭痛であれば、後渓穴或いは申脈穴を使い、陽明頭痛であれば、合谷或いは陥谷穴を使う。ただし、陽明は額と顔面を支配しているが、もし病証が眉棱骨、眼内角、頬骨にある場合は、太陽を考慮する必要がある。なぜなら足太陽経が眼内角の睛明穴から始まり、眉棱骨を経由し、手太陽経が頬骨附近の顴髎穴を通るためである。

4)手(掌)、頭(同気)
頭と顔面は、上記の手足の経絡と同気関係となるほか、手掌とも同気の関係を持っている。

両手を合掌してみると:
・中指の先端は頭頂部に対応し、厥陰に属す。
・人差し指の側面は額に対応し、陽明に属す。
・手背は側頭に対応し、少陽に属する。耳鳴りや難聴など耳の問題を含み、側頭部の問題は、少陽で解決できる。勿論、耳の問題は少陽に限らず、少陽を求めて効果が不十分の場合、太陽にも求めることができる。
・拇指の背側は鼻に対応し、太陰に属する。一般的な鼻つまり、鼻水、くしゃみ、さらには嗅覚障害などの鼻の問題は、拇指背側の太陰を求める。多くの場合、針が入った瞬間に鼻つまりが解消される。

同気相求める原則により、頭の多くの疾患は、両手掌上で解決できる。手掌と頭の同気関係は、通常の頭痛や頭熱の病気を解決するだけでなく、緊急救助にも使える。一般的な脳卒中の場合、脳出血であれ、脳梗塞であれ、ただちに指尖に刺して出血すれば、往々にして危険な状態から脱出することができる。指尖刺血は、十宣穴放血とも呼ばれ、古代から伝えられて来た応急措置であり、この原理と根拠は、同気と切り離すことができない。

5)頚項経絡(同気)
頚項経絡(同気)

経絡頚項
督脈風府~大椎後渓申脈
任脈廉泉~天突列欠照海
陽明人迎~欠盆陽渓解渓
太陽天柱~大杼陽谷崑崙
少陽風池、翳風~肩井陽池丘墟

説明:督脈は手足の三陽を支配し、「陽脈之海」と言われる。任脈は手足の三陰を支配し、「陰脈之海」と言われる。任脈と督脈は人体で最大の1対の陰陽である。では、任脈と督脈で陰の病を陽で治療し、陽の病を陰で治療する、所謂「陰病治陽、陽病治陰」ができるのであろうか?もちろん、できる。例えば、腰脊の痛みは陽の病であり、腹部の任脈が循行する線上に治療位置を見つけることができる。陽の病を陰で治療する、所謂「陽病治陰」がこれである。この治療には、針を使わず、指で圧すだけで問題解決できる。

督脈は後ろの項の中央を走っている。厳格に言えば、頚椎1から頚椎7までの区域である。しかし、頸部では、真ん中を走る督脈以外、両側には太陽と少陽があることに注目する必要がある。現在、様々な原因による頚椎病をよく見かける。内針を行う者は、同気の原則を念頭に置き、同気の原則で弁証してから治療を行わなければならない。もし、病証が後ろでうなじの真ん中の、風府と大椎をつなぐ区域にある場合、督脈と同気するため、後渓穴或いは申脈穴が使える。もし、病証が後ろのうなじの両側である天柱穴と大杼穴をつなぐ区域にある場合、太陽と同気するため、陽谷穴或いは崑崙穴が使える。もし、病証が頚の外側である風池穴と翳風穴をつなぐ区域にある場合、少陽と同気するため、陽池穴或いは丘墟穴が使える。

頚部の経絡を正面からみると、任脈と陽明がある。列欠穴は任脈の交会穴であるため、任脈の問題は、列欠穴で解決できる。陽明の問題も同じように同気を求めれば、陽渓穴或いは解渓穴となる。少陰と太陰は頚内部の咽部を通るため、一般的な喉の痛みや嗄声など咽部の問題に対して、少陰と太陰に同気すると考えてもよいのであろうか?勿論そのように考えて宜しい。この場合、太淵穴或いは太渓穴が使える。要するに、同じ問題に対しても様々な解決策が存在するため、四総則を規範内で柔軟に活用することが望ましい。「大道至簡」と言う名言がある。1本の針で解決できる問題には、決して2本目の針を使わない。

6)肩部経絡(同気)
肩部経絡(同気)

経絡
陽明肩髃偏歴下巨虚
少陽肩髎外関懸鐘
太陽天宗(胸椎1~7)支正跗陽
太陰肩前(雲門、中府)経渠三陰交
厥陰脇前大腱内関三陰交
少陰腋下(極泉)通里三陰交

説明:肩背は上焦の区域に属し、膈兪穴より上の背部と肩部の総称である。肩には六つの経絡があり、六つの気が肩の周りに流れている。

背部の上焦区域は、膈兪穴或いは至陽穴の水平線から大椎穴の水平線の間になる。そこには胸椎1~7の背部が含まれる。肩貞穴や天宗穴の周りと肩甲骨の全体は、すべて太陽経が分布する領域に属している。たとえば、右肩が痛い患者で、右肩が挙がらず、右手が左耳まで挙がらない場合、おそらく問題は太陽にある。その時、太陽との同気が必要なので、上肢は支正穴、下肢は跗陽穴を選べる。五十肩による肩や腕の痛みや機能障害は辛いものである。この悩みは長くなると数年も続くことがある。五十肩に関して、先ずは、明確に痛みの具体的な場所を知ること。もし痛みが肩の前にある場合、この部位は太陰に属するので、上肢の経渠穴や下肢の三陰交穴を選べる。ほかには、肩腕の運動障害が所属する同気の経絡を判別する。たとえば、脇前大腱は厥陰に属し、その障害は、上肢が後ろに動かない、或いは腕上げや外転の可動域が制限される場合、厥陰の同気が考えられるので、上肢の内関穴や下肢の三陰交穴を選べる。肩の痛みで、少陰経の区域の障害は比較的まれであるが、一部の心臓病患者は脇の下に引き寄せられる感があり、その時には少陰の同気が考えられるので、上肢の通里穴や下肢の三陰交穴を選べる。肩部は上焦に属し、上が上と同気するため、肩部の問題は、手首と足首附近のツボから解決策を求めるのは、同気相求めることになるのである。しかし、手足三才(焦)の位置付けを議論するとき、肩と股が下焦地部に対応することを説明した。つまり、肩と股は同気の関係となるため、本来、肩の問題は股で解決するのであるが、ここでは手首と足首で解決することは、まさに総則四(陰と陽を逆にして同気相求める)の応用になるのである。まとめると、肩甲骨部は手太陽が循行する範囲であり、この範囲に痛みや違和感があれば、支正穴を選べる。支正穴は手太陽の絡穴であるため、支正穴を求めることは、同気を求めるだけでなく、本経の本気(純度の高い同気)にも属している。

7)腰部経絡(同気)
腰部経絡(同気)

経絡
太陽小海委中
少陽(胸椎12~腰椎1)天井陽陵泉

説明:腰部には主に太陽経が分布しているため、腰部の問題は太陽経に同気を求める必要がある。但し、胸椎12~腰椎1の間に現われる不具合は、太陽の同気を求めても理想的な効果が得られない場合がある。その時には少陽経の同気と組合せればよい。前肋骨の不具合は少陽に求め、後肋骨の不具合も少陽に同気を求めることができる。

8)三焦経絡(同気)
①上焦経絡(同気)
上焦経絡(鳩尾~天突)(同気)

経絡
厥陰内関三陰交
陽明偏歴下巨虚
少陰通里三陰交
太陰経渠三陰交

説明:上焦とは、鳩尾穴の水平線と天突穴の水平線の間の区域を指す。心臓が上焦にあり、心包も上焦にある。中国伝統医学が示した五臓の「心」は、西洋医学の循環系の心臓に関連している。中国文化における「心」の意味は深い。心は通常、心包に代理されるため、肺系疾患以外の胸部の問題は、先ず厥陰を考えるべきである。内関穴が心胸と同気するため、心胸の問題は、内関穴を求めるのが最適となるのである。心胸の問題は、下肢で同気を求めるなら、三陰交穴或いは中都穴や蠡溝穴が考えられる。また、足陽明経が乳頭を通り、足少陰経が足陽明経と任脈の間にあり、足太陰経は足陽明経の外側にあることは、同気を求めるための根拠となる。例えば、内関穴は乳房の問題に使われるが、問題が乳頭の区域にある場合は、陽明の同気と組み合わせる必要があるため、上肢の偏歴穴と下肢の下巨虚穴が使われる。経絡の循行経路からみると、心前区域には厥陰経以外に陽明経と太陰経が走行している。したがって、心胸前区域の冠状動脈心臓病による不快感のような場合は、右側の厥陰にある内関穴或いは三陰交穴を使える。効果が不十分な場合は、陽明と太陰との同気点(例えば、右側の偏歴穴或いは下巨虚穴)を加える。

②中焦経絡(同気)
中焦(鳩尾~神闕)経絡(同気)

経絡
陽明曲池足三里
少陰少海陰谷
太陰尺沢陰陵泉
厥陰曲沢曲泉
少陽天井陽陵泉

説明:中焦は胃の「家」と言われ、胃は脾と表裏の関係となる。この区域には他の臓器があるが、脾と胃が主なものである。したがって、中焦の問題は、まず陽明を考えるべきである。

中焦に関するあらゆる問題は、六経弁証の原則に従わなければならない。まず、不具合がどの経絡(同名経絡を含む)にあるかを特定し、その経絡から中焦の同気を求める。例えば、胃痛の場合、少陰の中焦に同気を求める可能性があれば、陽明或いは太陰、厥陰に同気を求める可能性もある。もし不具合が胸の肋間(日月穴の区域)に現れる場合、少陽との同気を考える必要がある。

③下焦経絡(同気)
下焦(腰椎1~5)経絡(同気)

経絡
少陰通里太渓
厥陰大陵中封
太陰太淵商丘
陽明陽渓解渓
少陽陽池/中渚丘墟/足臨泣

説明:下焦の区域は、背部の腰椎1~腰椎5の間にあり、また腰仙部も含む。前面では神闕以下の区域である。下焦は四肢の肩と股に対応する。内針の規範では肘と膝以上(胴体に近い)を禁針区域として明確に定めているため、下焦経絡の同気を求める際に「陰と陽を逆にして同気相求める」と言う原則を利用して、四肢の手首と足首に上焦の同気を求める。どのような治療システムであっても、どの臓器に現れている病証でも、病症の性質が何であれ、内針の総則と内針の規範、特に陰と陽の関係を念頭に置いて対応する必要がある。

たとえば、下腹部の張れや下墜感、生理痛、膀胱や尿道の問題による下腹部の不具合は、まずは少陰を考える必要がある。何故なら、上記の区域はすべて、足少陰腎経の管轄下にあるためである。「陰と陽を逆にして同気相求める」原則により、上肢では通里穴、下肢では太渓穴を選べる。下焦の病証は下腹部や少腹部(腹部の両側)及び鼠径部で現れる場合が多いが、これらの区域には、少陰以外に厥陰、太陰、陽明及び任脈が循行している。更に厥陰経は二陰(生殖器と肛門)の周りを循行している。「陰と陽を逆にして同気相求める」と言う原則に基づき、厥陰では上に大陵穴或いは内関穴、下では中封穴を選べる。大陵穴は手厥陰心包経の兪穴であり、また、原穴でもある。また太陰の上では太淵穴或いは経渠穴、下では商丘穴を選べる。

これらから類推すると、陽明の下焦の問題は、上では陽渓穴、下では解渓穴を選べる。手と首は上(焦)、肘と膝は中(焦)、肩と股は下(焦)と言う論説によれば、即ち陽渓穴や解渓穴は上(焦)を代表している。そういうわけで、二渓(陽渓穴、解渓穴)で陽明の下焦の問題を解決することは、まさに「陰と陽を逆にして同気相求める」原則の応用である。

下焦少陽の問題、たとえば、大腿骨頭壊死による疼痛、坐骨神経痛などの場合、上に中渚穴、下に丘墟穴を選べる。でも私は丘墟穴の代わりに足臨泣穴をよく選ぶ。理由としては、帯脈が腰の周りを循行し、腰の周りに痛みがある場合、問題が帯脈上にあるため、帯脈に通じる外関穴或いは足臨泣穴を選ぶ。

9)任脈、督脈(同気)
督脈は胞中から始まり、下の会陰穴から出て、長強穴を通過して後背の真ん中を走行している。そのため、腰仙部や肛門周辺を中心とした不具合は、督脈からの治療が考えられる。会陰穴および腰仙部区域の病証には、上(手)の後渓穴、下(足)の申脈穴を選べる。その理由は、後渓穴と申脈穴が督脈と交会するからである。もちろん、「下病上取」の原則によると、本経の督脈から直接に上(頭部)の百会穴或いは水溝穴(人中)を選べる。このように尾椎、腰仙部、会陰の問題、さらには前陰と後陰の問題も、督脈から治療できる。では、このような病証は、任脈から治療できるか?もちろんできる。それは任脈が上記の部分区域に循行するためであり、もう一方では上記の区域(例えば、腰仙部)などに循行していなくても、「前」の任脈と「後」の督脈は一対の大陰陽になっているため、任脈から治療しても「陽(督脈)病陰(任脈)治」の規範からは外れていないのである。任脈の病証を治療するには上(手)の列欠穴、下(足)の照海穴を選べるし、本経の任脈から承漿穴、廉泉穴、天突穴を直接選んでもよい。

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