鍼灸師の未来を考える

「この時代に鍼灸を残すにはどうしたらよいのか」。
私はいつもそのことを考えています。
こんなに良いものなのに、なぜ人は受けないのだろう。
本当に多くの人に知って欲しい。

長い付き合いになるBさんは「安価で早くよくなるのであれば病院へ行く」と言っていました。
「鍼灸は即効がない」「鍼灸は高い」「鍼灸は続けないと駄目だから」という経済的な理由で選ばれないと。
そして「先生の理想は日本では無理よ」ということを教えてくれました。
確かにBさんの言葉は正論です。本当にその通りなのですが、なぜ整骨院は保険適応なのに鍼灸院は医師からの同意書が必要なのか。そして医師が同意書を書きたがらない理由は何か。
さらに予防歯科は保険適応なのに、予防医学はなぜ保険が適応されないのか。誰もが抱く鍼灸への疑問は実際のところは深いところに問題がある気がします。

私は鍼灸師の未来を考えると同時に本来あるべき医療の形を考えています。
そんな話を友人にしたところ、SNSで流れてきた動画を教えてくれました。

『マツコ会議』でDJ松永さんとマツコさんの会話

DJ松永さんが「日本でヒップホップが広まってくれれば嬉しいと思う反面、日本だとどうしても限界がある」「暴力的なところとか、論理的にアウトなところを許容する価値観が日本人と合わない」と伝えます。

するとマツコさんが「ヒップホップがこれ以上大きくならないというのは違うと思う」「テレビだからダメなの」「(ヒップホップの文化など)根っこにあるところは置いといて、流行らすってことをメインにしてしまった」「もっと違う根付かせ方があったはず」と答えるのです。

さらに「アタシも相当苦しんだクチなのね。テレビ向きじゃない人間なので」「それをテレビの人たちが、テレビにあうようにして世の中に出してくれてるから売れたと思ってるのよ」「(でも)それが自分の本質的な部分だとは未だに思ってない」と続きます。

「いまってまだまだ過渡期だと思うのよ。ヒップホップに対してだけじゃなくいろいろな表現に対して」「エンターテインメントだけじゃなくて、会社だったり学校だったり政治だったり・・・」。

私はこの会話が鍼灸にも当てはまると思っています。

現状、日本での鍼灸の普及には限界があり、流行らせることに重きをおくと違う方向へ行く気がしています。
例えば美容鍼であったり、〇〇鍼などの新しい名称であったり、鍼灸師や整体師のインフルエンサーであったり。
けれど、それは一時的なブームであって、どうしても文化としては残りにくいと思うのです。

ではどうしたら良いか。
私は数年前に代官山T-SITEに鍼灸サロンを入れたら面白いと思いました。
そこには大衆店や整骨院は置きません。スタイリッシュで洗練された空間を作り、香り、音、光、施術など五感を休めるために最高の癒しを提供するのです。しかし癒しは目的ではなく、鍼灸あん摩指圧マッサージで身体を整えた先に究極の癒しがあるようにデザインします。
施術を終えると施術者は中庭が見える椅子に案内をして自然茶を提供します。その時間は喫茶去の考えのもと、お茶を通して一息つくことで日常から離れる、余白を生むという禅の考えを大切にします。

それを嗅覚が鋭い人たちが集まる場所に鍼灸あん摩指圧マッサージ院を併設するのです。
またスターバックスには日本の各地域の象徴となる場所には「スターバックス リージョナル ランドマーク ストア」があるため、その店舗に置くのも面白いでしょう。ベンツやポルシェではなくレクサスに併設することで鍼灸あん摩指圧マッサージそのもののブランドイメージが向上する気がします。このことはすでに銀行員の方、トヨタの社員さん、スターバックス本社の方やデザイナーさんには話をしているのですが、評判は良いものの夢で終えてしまいそうです。
実際のところ虎ノ門で2年半アトリエとして構えたのですが、定着することはありませんでした。ただ、外国人や芸能人、海外では評価をいただいたので、日本国内では限界があることを目の当たりにしています。

なぜ私がこのように鍼灸マッサージに強いこだわりがあるのかというと、鍼灸を未来に残すための行動を起こす必要性を感じているからです。国内で同じ方法を名称を変えて発信したり、足を引っ張りあうでは限界があります。
そうしている間に世界ではTraditional Chinese Medicine(TCM)が主流になり、日本人が伝統鍼灸とは何かと議論している間に大きく差が開いているのです。もちろんその概要をまとめる必要はありますが現状のままでは限界を迎える可能性が大いにあります。ではそのことに対して何ができるかというと世界に発信する時代であることが明確だと思います。

ではなぜそれをしないのか。

これまで日本は、古代中国、朝鮮半島、オランダ、ポルトガルといった国に様々な影響を受けながら成熟していきました。そのことが上手くいった背景には「四季の存在」「島国」「気質」「探求心」などがあります。しかし、そのことを発信するという形はとってきませんでした。そして世界では中国がTraditional Chinese Medicine(TCM)を発信し続けています。

鍼灸は6世紀頃に朝鮮半島を経由して日本に伝来してきました。それは単純に計算しても約1400年前のことです。
その鍼灸が日本の風土や文化に合わせて独自の発展を遂げて今日までの残り続けています。

そして、日本人の遺伝子に残る縄文文化(自然と共存する独自の文化・植物療法や温熱療法・手当て)や四季による自然観、また感受性は広義的な治療・療法において必ず有益であると思うのです。

いま世界での医療の中心は西洋医学であり、それは標準治療でもあります。しかし、それでも救われない人が少なからずいることも事実であり、その人々に「癒し手」として心身の不調を癒すことは鍼灸あん摩指圧マッサージ師としては難しいことではありません。

西洋医学のなかに東洋医学を組み込みことを考えることはとても難しくても、東洋医学として、日本人治療者として世界に発信することは難しくないと思うのです。そしてそれを裏付けする歴史が日本の鍼灸にはあります。
ですから奇をてらうようなことは必要なく、日本人として本来の丁寧さや器用さ、空気を読み取る力を活かすことで日本鍼灸の価値は大きく上がると思います。

ただし、なかには神格化したり、宗教色が強くなる施術者がでてくるのも事実です。そういった課題もあるのですが、私は西洋的な価値観で物事を捉えたり考えたりすることに限界があるため、東洋的な価値観を持ちつつもバランス感覚の優れた鍼灸マッサージ師を育てたいとも考えています。
そして次の段階としては世界に日本人鍼灸あん摩指圧マッサージ師の価値を発信していき、価値を高めていきたいと願っています。








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