みなさんは鍼灸に対してどのような印象があるでしょうか?
お年寄りが受けるイメージ、肩こりや腰痛で利用されるものというイメージかもしれません。
実際には日本人が1年間に鍼灸を受ける受療率は全人口の4%とされており、その数字からもあまり多くの人に認知されていないことが良くわかります。
その理由として「怪しい」「 何に効くか分からない」といったものがあるかもしれません。
しかし、日本における鍼灸は 6 世紀半ば中国より持ち込まれています。
その後「遣隋使」「遣唐使」によって平安時代には中医学とともに日本に定着しました。
飛鳥時代から室町時代までが鍼灸および中医学の受容時期であり、江戸時代には漢方の最盛期を迎え、漢方に対する日本独自の概念も生まれました。
鎖国により「漢方」は「蘭方」に徐々にその主役を奪われましたが、鍼灸は明治維新までは盛んにおこなわれていました。
明治維新により明治政府は西洋医学のみを医療として普及させたため、鍼灸や漢方は医療の枠から外されることになり、その結果として民間医療や民間薬として存続していきます。
文明開化時代にその進歩的思想に真っ先に飛びついたのは当時のインテリ階級で、彼らが真っ先に鍼灸や漢方を捨てていきました。
しかし、一般の庶民階級が支持していたことで大正、昭和に生き残りました。
今度は文明開化で進歩的な役割をした人たちが西洋文明に対して疑問を抱きだして、西洋医学では病気が治らないという事実に気づきだしたのです。
そして昭和に入り漢方薬の慢性病への効能が再評価されるようになり、また1972年に日中国交回復を機に、鍼灸や中医学の知識および技術が再び日本にもたらされ、その後漢方の保険適応がはじまるなど、徐々に日本の医療界においてその存在が重視されるようになってきました。
しかし、国民皆保険がスタートして庶民階級が西洋医学を取り入れ始めたところから日本の医療は西洋医学中心です。
では西洋医学と東洋医学では根本的に何が違うのか。
それは西洋医学が病名治療であることに対して、東洋医学が随証治療であるということ。
病名治療は現代医学の診断名に対して薬を処方するというものであり、随証治療は患者の体質・病気・症状、心の状態、体の状態に合わせて治療をおこなうというものであり、西洋医学と東洋医学では全く治療体系も目的も異なるのです。
なぜ日本において鍼灸がリラクゼーションの立ち位置なのかということは、歴史的背景が大きいとご理解いただけたと思います。
そして文明開化や敗戦後に欧米中心の社会になり論理的・合理的思考が正しいという風潮が影響しました。
それにより鍼灸は正統派医学ではないと烙印をおされてしまったのです。
しかし、人体における生体防御の仕組みは2000年前と今とで変わってはいません。
医療の目的は、病める患者を安全に、より早く、より負担が少ない方法で治すことであり、そこに東西は関係ないのです。
そして科学の定義は、問題に対する仮説が観察・実験等により検討できる実証性。
同一条件のもとで同一の結果が得られる再現性。
導出した結果が事実に基づき客観的に認められる客観性をさしますがこれはデカルト科学を示します。
しかし人間の営みは同一環境でおこなわれるものではありません。
人間には限界があり、世の中は動き、偶然というものが存在します。
つまり西洋医学はデカルト科学、東洋医学はパスカル科学であり、同じフィールドで考えることは困難です。
そしてこの2000年という歳月に積み上げられてきた経験は非科学でも、怪しいものでは決してありません。
なぜこのようなことを紹介しているのかというと鍼灸は偽医学ではなく、アジア人、日本人に合った最良の医療の1つであることを知って欲しいからです。
私は宗教家でも思想家でもありません。
一人の鍼灸師として体に鍼を刺して灸をしてリラックスしてもらうことが生業なのでもなく、あなたが人生を全うできるように鍼術をおこなうことが仕事だと思っています。
しかし、世の中にはブランディングなのか、医師、整体師、鍼灸師、健康評論家、占い師が神格化して人を騙しています。
それは世の中に健康や病気が強い期待感や恐怖感に左右される以上、そして努力や不快を避けたがる人がいる以上、彼らの格好の餌食になります。
過去に患者さんが二人来なくなることがありましたが、二人に共通していえることは「占い師が行くのをやめなさいと言ったから・・・」というものでした。
私が鍼灸について何を伝えたいかというと鍼灸は経験医学であり、しっかりとした理論体系がありますから偽医学ではありません。
ですから上記の占い師のように患者さんを支配することで利害関係を生むことは許しがたいのです。
時々、患者さんから「神様」「神がかり」「何でもわかるのですね」と言われますが医学は原理原則に従っておこなえば一定の効果は出ます。
人は自然の原理原則を守っていれば自ずと回復するのです。
私の20年以上の臨床経験、恩師の家元に伝わる300年以上の歴史をもっても、必要なものは自分自身の治癒力ですから、健康・治癒・治療の基本的な原理原則をご理解ください。
私がなぜ特別な存在になりたくないのかというと、そのような関係は患者を欺くことになるという意識があるからです。
必要なことは患者自身が治りたいという意識であり、その意識がない限り治癒回復することは難しいと思うのです。
自己の治療法を確信する治療家側の信念が患者側の信念を喚起し、そのふたつの深淵が相乗して奇跡を起こしうるのですから、あなたは私に頼るだけではなく自分自身でも最善を尽くしてください。
私は「医は仁術である」という考えを大切にしており、人を深く思いやり、慈しむ心をもととし、人を救うことを目標にしていますから、そのことに反することはおこないません。
東洋医学が伝統医学であっても神秘的なものでもなく、根拠ないものでもありませんから、鍼灸師を神格化する必要もなく、ただ当たり前のことを当たり前におこなうことがプロであると認識しています。
一番大切なことは患者自身の「生き方」であり、私たちができることは奇跡ではなく日常の一部にすぎません。
ですからこの記事を読んでいただき、命を養うということを知っていただけたら幸いです。